最近数回に渡ってご紹介している『鬼滅の刃』英語版(”Demon Slayer–Kimetsu no Yaiba”)。
1巻では、義勇さんとともに錆兎の名セリフも忘れられません。
男が喚くな 見苦しい (『鬼滅の刃』第1巻 第4話 炭治郎日記・前編)
A man shouldn’t whine…it’s unseemly.
(“Demon Slayer –Kimetsu no Yaiba– Volume 1, Chapter 4)
whine は「泣き言を言う」。unseemlyはこの本を読むまで遭遇したことがありませんでした。フィクション系の読書が足りなかったかな。
どんな苦しみにも黙って耐えろ お前が男なら 男に生まれたなら
Whatever the suffering, bear it in silence. If you’re a man. Or are you still a little boy?
(同上)
“whatever +名詞”で「どんな〜であっても」。”whatever the reason”で「理由が何であろうと」のように使います。
Bear it in silence. 黙って耐えろ
くーっ、錆兎かっこいいなあ。こうして読み返してみると、『鬼滅の刃』は多分に対話劇的な要素があるので、相手に語りかける言葉−−その一番ダイレクトな形が命令形−−が多用されています。英語初心者の方でも楽しめる名セリフが一杯ですね。
この部分の英語の訳は、日本語の「お前が男なら 男に生まれたなら」という日本語の畳み掛けるように相手に迫る感じではなく、英語を日本語に訳し戻すと「お前が男なら。それともお前はまだ子どもなのか?」と少しからかうような調子が感じられます。
日本語と英語でニュアンスの違いが一番感じられたのは次のセリフかな?
鈍い 弱い 未熟 そんなものは男ではない
You’re slow…and weak…and immature…you’ll never ben a demon slayer.”
(同上)
日本語のセリフが「そんなものは男ではない」という錆兎の価値観の表明になっているのに対し、英語をこれまた日本語に訳し戻すと「お前は決して鬼狩りにはなれない」。よくよく考えてみると、錆兎の日本語のセリフにはかなり発想の飛躍というか、省略がある。「男らしくあらねば強くはなれない。強くなければ岩を切れない。岩を切れなければ鬼を狩る剣士にはなれない」と多分錆兎は言いたいのでしょう。あるいは、英訳者はそう解釈したのでしょう。英語では、この部分の最初と最後をうまくつないで説明しています。しかし、余白の多い、リズムのよい印象的なセリフは『鬼滅の刃』の魅力の一つでもあるので、ぜひ海外読者には日本語を学んで直に作品世界に触れてほしいですね。