通訳クラスの授業では、「日英通訳でよりナチュラルな表現を使えるようになるためには、英語に触れる中で英訳に活かせる語彙を蓄積すること」といつも伝えています。
例えば、どういうことをするかというと。
先日、東京オリンピックが閉幕しましたが、NHKのオリンピック動画サイトでアーカイブを見ることができます(2021年8月11日現在)。
「動画」から好きな競技の動画を選びましょう。沢山あります。
好きな動画のページに飛んだら、ヘッドフォンマークのところから、「英語」を選ぶと英語の実況を聞くことができます。
昨日は、フェンシングの試合の録画を見ました。「いいな!」と思った表現は早速メモ。
昨日ピックアップした表現はこんな感じです。
trail: “A is trailing.“「Aが追いかける展開」
nail-biting: “This is going to be a nail-biting fight in the final two minutes.” 「最後の二分間は、手に汗握る戦いになるだろう」
close the deficit 「(劣勢なほうが)差を詰める」
thrive under pressure 「プレッシャーのもとで力を発揮する(輝く)」
「文脈で学ぶ−−ドラマで学ぶ仮定法」の記事でも触れたように、文脈で覚えると記憶に残りやすいのです。
ここで、「文脈に沿って英語を英語のままで理解する」というのでもいいのですが、通訳をやってみたい方は自分の手持ちの日本語の語彙と突き合わせて日本語化しておく、というのもポイント。
上記の例で言えば、「手に汗握る」や「差を詰める」は、日本語として割とこなれた表現になっていると思います。
そして、この作業をした後で、反対に「手に汗握る」とか「差を詰める」とか言われた時に、「ああ、ここではnail-bitingが使えるな、close the deficit (あるいはgap)を使えるな」と頭を整理しておくわけです。
というのは、こういう仕入れをしていない状態で、「手に汗握る」「差を詰める」などの文言を英語に訳そうとすると、
「えっと…”汗”があるからsweating? 」
「”詰める” “詰める” ”詰める”…えーっと、何と言ったらいいんだろう?」
と言葉に引きずられてしまいがちになってしまうのです。
翻訳もそうだと思いますが、通訳は「言葉の置き換え」ではなく、「意味」すなわち「情報」と「メッセージ」を伝えることが大事。
そのためには、日頃の仕込みが大事なのです。
こういう、「状況から学ぶ」スキルは、仕事の現場でも役立ちます。
例えば、会議の参加者が自分には分からない特殊な用語や社内用語を用いている場合。もちろん、調べたり確認したりしてみなければ分からないことも多々ありますが、「こういうことについて述べているのだろう」「このことを指しているのだろう」と類推するスキルも非常に大切になってきます。
暗号解読みたいですね。でも、いくら勉強しても相手が話すすべての言葉を自分が知っていることはほぼありえないし、音声条件が悪かったり話者が自分にとって不慣れなアクセントの持ち主だったりすることはよくあるので、大切なスキルなのです。
楽しみながら覚えられる教材を選び、語彙力や類推力を伸ばしていきましょう。