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リモートワーク時代の通訳(1)

IT
Online lesson teacher in front of computer

コロナ禍により一気に広まったリモートワーク。通訳の世界も一変しました。

秋になってようやく対面の案件もぼつぼつ出始めましたが、まだ圧倒的に遠隔通訳が主流です。

しかし、日本の場合特徴的なのは通訳エージェントなどのスタジオに行って通訳を行う、ということ。もともと国土が広大で電話通訳が普及していたこともあり、通訳者が自宅で行うことが多いアメリカ等とは大きな違いですね。

自宅でも、スタジオでも通訳を経験して思うことは、技術的なことをエージェントの方に任せられる安心感は大きい、ということ。

そして、自分の感触としては遠隔同時通訳専用のプラットフォームを使うところはまだ日本では多くなく、ウェブ会議プラットフォームを組み合わせて使うことが多いけれども、その時に生じる不便さはかなりの程度解消されるということ。

例えば、ZOOMはウェブ会議プラットフォームながら簡単な言語翻訳機能がついているのですが(有料オプション)、翻訳機能をONにした瞬間に通訳者同士はもう相手の声が聞こえなくなるため、「パートナーの声をモニタリングする」ということが全くできないのです。パートナーの声が聞こえないと交代のタイミングを図るのが難しくなるため、自宅で、すなわち通訳者同士が離れた場所にいる場合は、通訳者だけでLINEグループなりFacebook Messengerなり別のアプリを立ち上げておいて、そこに通訳音声を流して確認する、あるいは交代を知らせるということをすることが多いです。なので、「自宅でZOOMの同時通訳」と聞くと身構えていました。しかし、エージェントの通訳スタジオで実施される場合、パートナーは側にいます。通訳している声も聞こえます。「うまく交代できなくて、訳出がされない空白の時間ができてしまうのではないか」「二重にかぶってしまうのではないか」というストレスは軽減されますね。

日本の場合、リモートワークになっても以下のような条件から、「都心にあるエージェントの通訳スタジオに集まって通訳」というのがしばらく主流になるかもしれない、と思います。

  1. 企業のリモートワーク化が進んでいると言っても、本社が首都圏にある企業が多いこと。
  2. 通訳エージェントも首都圏(東京)が圧倒的に多く、これまでの経緯から通訳者も多数東京・関東に在住していること。 *一部、移住されている方もあると聞いています
  3. ウェブ会議プラットフォームの簡便さ、料金の安さ。 *逆に言うと、遠隔同時通訳プラットフォームのシステムの複雑さ、料金の高さ。
  4. より確実性や安定性を高める手段があれば、クライアントはそれを望むだろう、ということ。

しかし、世界の潮流はどんどん変わってきており、コロナの前から遠隔通訳が行われてきた諸外国のように、大きなカンファレンスを非常に離れた拠点にいる通訳者同士がパートナーとなって通訳をするという事態は、日本でもよく聞くことになるのかもしれません。

それにしても、いろいろなITソリューションの設計思想の「裏側」を考えてみると興味深いものがありますね。ZOOMの言語翻訳機能で「パートナー通訳者の声が聞こえない」という状態は、もともと通訳機能の提供を主目的としたプラットフォームではないので仕方がないものの、「同時通訳は集中力が長く保てないので交代して通訳を実施しなければならない」「交代は機械的にできるものではなく、話者の言い終わりとパートナーの訳し終わりのタイミングを見て実施しなければならない」という知識がなかったのではないか。または、英語とフランス語など、語順の近い言語同士が想定されていて、日本語と英語のように文法的に懸隔があるのでどうしても同時通訳の訳出を厳密に「同時」には始められない言語ペアは想定されていなかったのではないか。

Twitterのリプライの機能がデフォルトで「巻き込みリプ」(=リツイートされた投稿にリプライをしようとする時、オリジナルの投稿者だけでなくリツイートした人にもリプライすること)ができるようになっていることなども興味深いです。日本では「巻き込みリプ」をするのは非常に嫌われる印象がありますが、デフォルトにしているということは、なにかそこに意図があるのではないか。最新のテクノロジーに触れる時、そういうことを考えてみるのが好きです。

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