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「通訳」の今後

これからの「通訳」について話をする時、「通訳者」という職業なのか、「通訳」という活動なのかを区別することが大事だと思っています。

一般には、通訳をする人=通訳者は「通訳さん」と呼ばれることが多く、職業なのか活動なのかは余り区別されていないように思います。「”通訳者”と呼んでほしい」という通訳者からの声が一時盛り上がったことがあったように思いますが、余り浸透することなく、私も最近は「通訳さん」と呼ばれることに慣れてしまいました。

なぜ、この区別が重要かというと、職業は技術動向を始めとするマクロ環境に左右されてしまうものだからです。

AIの活用が進み、自動翻訳も質のよいアウトプットができるものが出てきて、すでに「翻訳者」という職業は「ポストエディター」に置き換わってきている、と翻訳業界に詳しい友人が言っていました。実際、私も翻訳の仕事を受けることがあるのですが、用語集を作って翻訳支援ツールに覚えさせることと、機械翻訳が処理しきれなかったところを直す仕事が多くなってきています。

以前の投稿で、通訳者という職業について「もうしばらくは猶予があるようだ」とは書きましたが、全体的な趨勢を見ると、成長産業であるとはとても言えません。

なので、「通訳者になりたい」というご相談を受けることもよくあるのですが、そう思う動機をよく見つめてほしいと思っています。

テレビなどで通訳が行われている場面を見て憧れたのか。柔軟なワークスタイル・ライフスタイルが持てるからか。いろいろな人と出会えるからか。語学を使う仕事の頂点のように思えるからか。

どういう動機であってもよい。でも、自分の内発的な、根源的な欲求にかなっている道を選ぶほうが、どんな仕事であっても成功を収めやすいのではないか、と私は考えています。

「通訳者」という職業は、もともと、マクロ経済の動向に強く影響される職業でした。どんなに能力があっても、リーマンショックのような不況が襲った時、そして今回のコロナのような騒ぎで外国との往来が制限される時、全体的な需要が落ち込むので影響を受けることは避けられません。また、先に述べたAIなどの進化によって、消えゆくか、あるいは劇的に変貌せざるを得ない「職業」であるといえます。

なので、今から「通訳者になりたい」という方の夢を砕くことはなるべくしたくはないのですが、現状ではおいそれと勧められない、特にフリーランス通訳者になることを誰にでもは勧められない、と思っています。リスクがあまりにも大きいからです。

しかし、「通訳という活動」「通訳技術」は別です。

言語を超えて人と人が意思を疎通させたいという願いを手助けする、そういう営為が今後も容易になくなるとは思えません。また、通訳をするための技術、その訓練法は語学そのものを習得するためにも極めて有用なものです。

通訳訓練においては、「誰かの役に立つためにこの技術を学ぶ」という視点を、かなり初心者のうちから持つことが要求されます。例えばあなたの声が小さすぎたら。発音が不明瞭であったら。聞いている人が困るでしょう、恥ずかしさは乗り越えなさい、というふうに教えられるわけです。私は、この点をもっと通訳訓練において強調すべきなのではないかと思っています。意識的であればあるほど、その視点から得られる気づきを活用できるから。そして、「誰かの役に立つために学ぶ」という視点から語学学習を考えてみるのも面白いかもしれないな、と思っています。

職業は盛衰があるもの、しかし、活動の中にある魅力は長く続くものです。自分がその活動のどの側面に惹かれているのかを知ることは、とても大切なことだと思います。それによって、活動の「かたち」が決まってくるから。例えば外国の方と触れ合うのが好きで、お世話をするのが好きで、という方にとって最も向いている道が「通訳者」という職業であるとは限りません。

自分の「好き」を深く見つめること、動機をきちんと理解することは、語学に限らずあらゆる能力開発において成功の鍵を握っているのではないか、と思っています。

 

 

 

 

 

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