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パオロ・ジョルダーノ著 『コロナの時代の僕ら』

春先に翻訳文がネットに無料公開されて一躍話題になった本。

感染がもっとも激しかった時期のイタリアの作家が書いたものだ。

物理学の学位を持つ小説家の手になる随筆であり、「実効再生産数」などの感染症にまつわる専門的な用語を、難しい数式などを用いずに説明している。さすが作家だと思う。

私が特に気に入っているのが「このまともじゃない非線形の世界で」の章。自然科学を学んだ人には当たり前の知識でも、一般人の感覚と全く違うことがあるが、それはどうしてなのかをわかりやすく解説している。

”数学的に言えば、僕たちは常に線形の動きを期待してしまうのだ。この本能的反応は自分でもどうにもならないほどに強い。”

”ところが実際の感染者数の増え方は、時につれどんどん速くなっていく。一見、手に負えない状況にさえ思える。”

”自然は、目まぐるしいほどの激しい増加(指数関数的変化)か、ずっと穏やかな増加(対数関数的変化)のどちらかを好むようにできている。自然は生まれつき非線形なのだ。”

(「このまともじゃない非線形の世界で)位置番号No.145-149 by Kindle)

そして、「地に足をつけたままで」の章で書かれていたこの文章に触発されて、自分も東京でロックダウンが噂された時期から日記をつけ始めた。

”時に執筆作業は錘となって、僕らが地に足を着けたままでいられるよう、助けてくれるものだ。でも別の動機もある。この感染症がこちらに対して、僕ら人類の何を明らかにしつつあるのか、それを絶対に見逃したくないのだ。”

(「地に足を着けたままで」位置番号No.57 by Kindle)

今も日記は断続的に書き続けているが、この本が出た頃の精神状況には独特なものがあった。昨年訪れたミラノの大聖堂前に人影が全くないシュールな光景、あの街ができてからこの方誰も見たことのないであろう風景を見たという不思議な感覚は、未だに表現する言葉を持たない。

あの頃の追い詰められ、そして追い詰められているからこそ研ぎ澄まされていた感覚は、一体どこへ消えてしまったのか。欧州では再び感染者数が急増し、冬を迎える。

これから私たちはどんな世界を見ることになるのだろう。

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